out-of-humor2
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恥ずべき興奮
 早朝、6時40分ごろ、浪速区千日前通りにて。
 通勤のため、地下鉄の駅へと自転車で急ぐ私は、グングン歩いてくる一人の老人とすれ違った。
 黒いフードで顔を半分隠したその男に、私は大いに感興をそそられた。
「まさかッ!?」と思った。
 なぜならその男の右手にはゴルフクラブ(アイアン)が握られていたから。

 邂逅は瞬間にすぎない。しかし朝ぼらけの、やや冷たい空気を切り裂くかのように街なかを進んでいく老人からは、何かただならぬ決意が感じられた。
 一つの明瞭なる「目的」、それのみをただ思い歩く彼の姿は、カタキ現ると聞いて飛び出していく仇討ちの士を思わせた。
「目的」とは、無論「河原ゴルフ」に違いない。
 こんな時間に顔を隠し、クラブ1本持って向かう先は、木津川の河原以外にはありえないのである。大正の阪神ゴルフセンターまではかなり遠いし、よしんば歩いていくとしたって、練習場へ赴くのにアイアン一本しか持参しないということはまずないはずだから。
(そして「目的」がそれであることは、つまり、人知れず鍛錬して何者かを見返すつもりである以上、やはり「仇討ち」と言ってかまうまいと思う)

「灯台もと暗しやないか」
 私は老人とすれ違い、後ろ髪引かれながら走り去る道すがら、何度もそう言って舌打ちをした。5ヶ月前、あんなところまで観覧に行ったのはなんだったのか。家から目と鼻の先で、ソレは行われていたのである。
 
 仕事さえなければ、私は疑いなくグルッとキビスを返し、尾行している。いかに早朝とはいえ、また老人とはいえ、抜き身(クラブ)をかざして街を闊歩するようなブッソウな輩を野放しにできないからである。
 恨みを飲む思いで、泣く泣く自転車を漕ぎながら、しかし、私の頭にある考えが閃いたのはそのときである。

「まさかあの爺、グリーンやバンカーをこしらえてはいないだろうな」

 途端に、なんとも言えぬ高揚した気持ちが沸き起こってきた。グリーンやバンカーまではいかずとも、少量の土を掘り返してカップくらいは作っているに違いない。確かな根拠はもちろん無いが、あの爺はそれくらいやる男だ。仇を討とうというのだから。

 私は「埋めよう」と思った。早朝、爺の到着する前にカップを探し出して、そっと穴を埋めておこうと思った。理由はうまく言えないけれども、そのときはともかくそうするのが一番よいと思った。優しいし、気が利いている。私は自分の企みにひそかに感心していた。
 
 その日の夜、仕事から帰ってきて、私は嫁にカクカクシカジカで、俺は明日早起きして穴を埋めなければならん、これは俺の使命であるというような話を興奮気味に語り、
「さあて明日から忙しいぞ」
 と不敵な微笑を浮かべ、そうして、ゆっくりと目を閉じて、寝た。

 翌日、起きると昼間であった。付けたままのテレビが「ごきげんよう」をやっていた。なぜか鼻が詰まっていた。ぼんやりと顔を洗い、メシを食って、コーヒーを飲んだのち、ふと昨日の興奮を思い出した。それからひとつひとつ具体的に、本来オノレが本日早朝為さねばならなかった行動を思い浮かべた。

「なんて億劫な!」と私は思った。

 どこにあるかも分からぬ直径10センチほどの穴を、腰を曲げて草を掻き分け掻き分け探し出すのにどれだけの時間と労力がいるか。そのことに、初めて思い至った。それはもしかすると気が遠くなるほどの難事業ではないのか。
 のみならず、河原の凹をひとつ均(なら)したからといって、それが一体なんだろう。子供の遊びにすぎない。それに仇討ちなんて、私は知らない。勝手にやらせておけばよいのである。
 昨日あんなに使命感をたぎらせて、「俺は埋めるぞ」と言っていたのが恥ずかしいと思った。実に幼稚で馬鹿馬鹿しい、恥ずべき興奮である。
「面倒くせ」と、私は鼻詰まりの声で言った。
 
*追記

 あんなに青空から
 もりあがつて湧くやうに
 きれいな風がくるですな

 と、宮沢賢治は病の床で書いたわけですが、この季節に「もりあがって沸くやうに」来るのはきれいな風ばかりではない。猛暑を避けるため部屋に潜んでいた迷惑ゴルファーたちも、幾分涼しくなったこの時期のそのそと行動を始めるのである。
 そのさまを想像すると、この表現が適切かどうかは知りませんが、僕は「息吹」という言葉を思い浮かべます。 




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コメント
この記事へのコメント
今、遅ればせながら「ワンダと巨像」をやっています。おもろいおもんないはさておき、このゲームは何故こんなに疲れるのだろう。巨像と文字通りの死闘を繰り広げ、ようやく倒したとき、もう僕はヘトヘトです。
2006/10/19(木) 15:54:53 | URL | aka #-[ 編集]
ボタンを押し続けるイコール巨像を掴み続ける徒労感…。
面倒くせ、と言わず最後までいってください。
僕は嫁のお義母さんが家に泊まっていてもやり続けた男です。
昨夜、ついにマザー2をクリアしたのでマザー3に挑もうと思います。

迷惑ゴルファーと名付けられてもゴルフをやり続ける彼等に穴を埋める行為がどれほどのダメージか疑問ですね。
しかしそういった行動はハチドリの水のようなものなのでしょう。
2006/10/19(木) 16:43:38 | URL | illue #-[ 編集]
ほんまに疲れますね。僕は1日に2体が限界です。
それにしてもillue君、義母の前でゲームをやるだけでも難儀やのに、やり続けるとは大変な度胸ですね。

ーハチドリの水のような
おっしゃる通りです。でも、(言うまでもないでしょうが)僕の望みは明確です。
アタリをつけていた場所にカップが見当たらず、「あれ、確かこの辺に…」などと独りごちながら、そこら中を探し回るジジイの様子を、草むらに隠れてずっと見ていたい…。
2006/10/20(金) 10:22:07 | URL | aka #-[ 編集]
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