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ゴルフ狂正伝「Aさんに聞いた話」
 昔からこのブログを読んでくださっている人には言わずもがなでしょうが、「ゴルフ狂正伝」(お、なんか懐かしいな)というシリーズには3人の英雄が登場します。
 
 阪神タイガースに人生の喜怒哀楽をすべてを持っていかれたOさん。
 スプーンの砕け散った男、Hさん。
 自称2ちゃんねらー、Kさん。

 
 さて、彼らのエピソードを語るなかで、時折Aさんという人物が登場したことを、注意深い読者の方は覚えておられるかもしれません。
 このAさんという人はKさんの直属の上司でありながら、横断的に姉妹店の管理もしていたので、いわば我々全員の上司にあたる男でした。
 上司とはいえこの男、サバンナ高橋式のふざけた男で、大変人当たりは良いが、慣れてくると他人をおちょくったり、揚げ足を取ったりすることを至上の喜びとするような、一口に言って嫌な性分でした。

(無論OさんHさんKさんの方にもおちょくられるだけの原因は明確に存在しているので、一方的に“嫌な性分”と断ずるのは不当でしょうが)

 このAさんという人は、今はもう会社にはいません。
(ああ、もうそろそろ、少しは書いてもよいのでしょうか?)
 ある重大な犯罪に手を染めたために今年の2月にクビになりました。
 犯罪と言っても警察沙汰にはなりませんでしたが、ともかくもういなくて、連絡も取れません。
 HさんKさんなどは、Aさんが失脚するやいなや、かつての「親しみ」はどこへやら(もしかするとそれは「阿り」であったかもしれませんが)、手のひらを返したように罵詈雑言の限りを尽くしております。それは「罪」とは直接関係の無い、Aさんの人間性の細部にまで及んでいる。
 こういう態度ほど醜いものはないと思います。語弊のあるのを承知で思い切って書いてしまいますが、たかだか法を犯した行為があったぐらいで旧知の人物への態度を豹変させるなんてどうかしていると思います。が、それはいずれ詳しく書くことがあるでしょう。
 ただこれはハッキリ言えます。私の見方では、私が一緒に働いたうちで一番マトモなのがAさんだったということは疑いを入れない。
「ゴルフ狂正伝」にAさんが主人公の話が一つとして無いのは、つまりはそういうことです。マトモだから書くことが無かったのです。
 
“嫌な性分”と私は先に書きましたが、本当によく陰口を叩く人でした(しかしその点では私が一番“嫌な性分”でしょう。なにしろこういう文章を書いているのですから)。けれども彼の陰口には何か含蓄があり、それでいて実にサッパリとしていていやらしい感じがしなかった。私などは目を輝かせて聞いたものです。これは彼の喋りがなかなか達者であったせいかもしれませんが、それだけではない。
 例えば下に挙げているような話は、もしかすると大した話ではないかもしれないけれども、しかし少なくともこういう話をきちんと覚えていて、しかも人に伝えられるということは、これは彼のマトモさの証明ではないかと思うのです。

*******************************

 Kさんが入社して間もなく、Aさんはすぐにそのセコイ本性を見切ったのだろう、何かにつけおちょくり始めた。
 はじめ彼が俎上に上げたのはKさんの親の職業、いわゆる家業についてであった。
 Kさんの家は散髪屋を営んでおり、オヤジの名前が店名に使われていて、「バーバー忠夫(仮名)」だったか「理容室 忠夫(仮名)」だったか忘れたけれども、とにかくイイ名前なのだそうだ。
 それで事あるごとにイチビッって、「ええ名前や、ええ名前や」と店名を誉め(ニヤニヤ笑いながら)、ときにKさんを「忠夫」と呼んでみたり、「忠夫は元気か?」などと、しつこく忠夫、忠夫と言っては、困惑するKさんの表情を見て楽しんでいたのであった。
 
 ある日、Kさんが蘭の鉢植えをゴルフ屋に持ってきた。実家で客に貰ったものを、オヤジである忠夫が良かれと思い、「おまえの店に持っていきなさい」と計らってくれたのだそうだ。
 Aさん、それを見るや「ふ~ん」と言い、店頭には飾らず、なぜか日当りの悪いバックルームに置き、続けてこんなことを言った。

「分かった。ほなこの蘭の名前は『忠夫』にしよか。君、ちゃんと毎日世話せなあかんで。枯らしたら承知せんで。もし枯れたら君んとこの店が潰れるっていうことやからな。縁起悪いやろ。それが嫌やったらちゃんと水やりしいや」
 
 どう聞いても小学生の冗談にしか聞こえないが、Aさんという人は時々こういう子供じみたことを言うのである。しかし最後に、

「もし枯らしたりしたら、俺が君んとこの店潰すで」
 
 と、真顔で言ったという。
 無論これも冗談に決まっているが、入社して間もないKさんは理不尽さに首をかしげながらも怖れを抱いた。まだAさんの人となりがよく分かっていないし、生まれつき小心な男だから無理もない。
 翌日からKさんは出社するとまず一番に「忠夫」に水をやり、勤務中も常に気にかけ、細心の注意を払って「忠夫」の世話をした。
 そのおかげだろう。「忠夫」は枯れることもなく、しばらくその大きくて美しい花弁を誇っていたという。
 だが、その鉢のなかに一株だけ、今にもほころびそうなツボミが顔を出しているのを目ざとくAさんが発見してしまった。

「Kくん、見てみ、あれ。ツボミできてるやろ。あれ絶対奇麗に咲かせなあかんで。あれ咲かんかったら、店潰すで」

 またプレッシャーをかけられ、いかに小心なKさんといえどもさすがに腹が立ってきた。そもそも良かれと思って蘭を持ってきたのに、なぜこのような不条理な恫喝を受けねばならないか。
 
 元々花を愛でるような風流心のカケラもないKさんである。当初は熱心に世話をしていたが、時が経つにつれ飽きもするし、理不尽な強制力が心底鬱陶しくなってきた。とうとう、いかにもシブシブといった感じで水をやり、悪い時にはふて腐れたような顔で「Aさんも気ぃついたら水やってください」などと、「露骨に反抗的な態度(Aさん談)」をとるようになった。
 
 それから数日後、Aさんが不意に、会社に内緒で3日間ほど九州に旅行へ行くと言い出した。その間、建前としては出勤していることになっているので、会社へのフォローは全てKさんがしなくてはならなかった。第一に3日間続けて「通し」で働かねばならないし、その上タイムカードを代わりに押し、社長から電話がかかってくれば、今ちょっと出ていますなどと嘘八百を並べねばならない。にもかかわらず「ほな頼むで。うまいことやってや。なんかあったら電話して」とだけ言い残し、Aさんはさっさと旅立ったという。
 このAさん不在の間、Kさんの心中やいかなるものだったろう。ハラワタ煮えくり返り、バケツの一つも蹴り飛ばしたに違いない。入社直後だけに、職場に愛着もあるまい。退社を考えたかもしれない。「忠夫」に水やりもしたかどうか。したとしても、人殺しのような顔で、極めて雑な手つきでやったことは容易に想像できる。人殺しのような顔で、丹精ならぬ、苛立ちと怨念のこもった水を、Kさんはジョロジョロジョロとやり続けた。

 隠密旅行は無事会社にバレることなく終わり、Aさんが3日ぶりに出社する日がきた。その日は朝からAさんが入り、Kさんは昼出勤であった。
 AさんはKさんの来るのを鶴首して待っていた。しきりに時計を見、早く、早く来いと思ったという。
 そして昼の1時。店の入り口にKさんの姿を発見したAさんは叫んだ。

「おい、忠夫見てみ!、忠夫見てみ!」

 血相を変え、慌てて駆け出すKさん。「しまった!」と思った。「枯れたのか!?」という思いが頭を駆け巡ったに違いない。
 ドアを荒々しく開け、バックルームにKさんが入った。続いてゆっくりと、Kさんの背後から覗き込むような所作をしながらAさんが入った。
 
 二人の前には、今まで見たこともないような立派さの、美しい蘭の花があった。
 
 息を飲むような美しさであった。
 ガッシリとして、それでいて透き通るような繊細な色合いの花弁が、活力という活力を凝縮したような力強さでピーンと伸び、開いていた。それは見事としかいいようのない、文字通りの大輪の花であった。

 平均年齢40歳のオッサン二人はしばらく無言で「忠夫」の前に立っていた。AさんはそのときのKさんの様子を、のちに物真似で再現して見せてくれた。

 おそらく昨日まで開花していなかったのだろう。誰よりも、己が一番ビックリした様子のKさんは眼を丸くし、ポカンと口を開けた腑抜けのような顔をして、いつまでも固まって立ちすくんでいた。
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コメント
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おそらく次回も「Aさんに聞いた話」。
2006/10/20(金) 10:25:46 | URL | aka #-[ 編集]
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