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ゴルフ狂正伝「Aさんに聞いた話その2」
 前回、「AさんはKさんの本性をすぐに見切った」と書いたが、この表現は曖昧に過ぎたと私は反省している。
 これから書くのはHさんの話だが、この男の本性の奇天烈さなどは数秒で見切れると思うから。
 それに比べればKさんは、理解するのに数日はかかるだろうという程度には、まだしもマトモでなのである。

 しかしながらHさんの場合、「見切る」という表現を用いてよいかのどうか。
 実際は、誰も見切ってなどいないのだ。これは、覗き込んだ穴の、その絶望的な暗さによってどうやら深そうだと分かるが、底に何があるか、あるいは底というものがあるのかどうかについては見当もつかぬという類の話である。
 つまり、理解できないという事実だけを砂を噛むような苛立たしさとともに理解するほかない。
 
 AさんがHさんに初めて会ったのは、ゴルフ部門の全体会議の席上だったという。
 まだロクに話もしていない新入社員のHさんを、Aさんはつぶさに観察していた。不意に、なにか話の弾みで社長がHさんに質問をしたという。
 それに対する答えが実に要領を得なかったので、いや、そうやない、俺が聞きたいのはこういうことやと社長がまた質問をした。
 今度も、トンチンカンな答えであった。
 社長の仏心か、新入社員相手に気を使ったのだろう、いやいや違うんやHよ、今聞いてんのはこういう話やと、苛立ちをおくびにも出さず、親しげな口ぶりで聞いた。
 
 だが悲しいかな、問答はこののち数度にわたって空しく繰り返された。

 このとき、社長は極めて寛大だったという。初めての会議でこの男も緊張しておるのだろうと慮り、実に丁寧に、根気良く質問を続けた。
 しかし問答を重ねるにつれ、Hさんの紅潮した顔に油汗が浮かび、程なくしてグラリグラリと頭が前後左右に揺れ始め、最後にゴトンと、前に突っ伏してコメカミをテーブルに打ち付けた。白目を剥いていたという。

 なんとHさんは、モノを聞かれすぎて気絶したというのだ。

 まるでマンガか、もしくはレギュラー西川君のような話だが真実だそうだ。私は何度も確認したが「ホンマやて。皆に聞いてみいや」とAさんは言う。
 それから、Aさんはこれはとんでもない奴が入ってきたと、侮蔑と背中合わせの畏れを抱くようになり、社長は苦笑交じりに「Hは体弱いからのー」と頻りに言うようになった。
(そのイメージを逆手に取って、恒例のゴルフコンペや送別会や社員旅行をHさんが病欠するようになるのは、またのちの話である)
 
 さて、AさんとHさんはその後、ある直営店で一緒に働くようになった。そして仕事の合間に会話を交わすうちに、Hさんが自分の身体的な障害について極めて重々しい口調で告白したという。

 なんでもかつてHさんは繊維関係の会社に勤めていて、旋盤だか裁断機だか忘れてしまったけれども、ともかく危ない機械に手を詰めたとかで、どの指だったかこれまた忘れてしまったが、思うように動かぬばかりか、痛覚その他の感覚が麻痺しているそうなのだ。

 どう足掻いてもここまでしか曲がらぬと言うように顔を曇らせて、指をカギ状に曲げながらHさんはこう言ったという。

「指の神経が通ってないんですわ」

 分かったような分からんような症状であるが、そのときは、まあそうなのだろう、可愛そうな男だ、くらいにAさんは思った。そしてこれはタブーだと判断して、障害についての言及を控えていたのである。

 ところが、いくらこちらが控えても、他ならぬHさん自身が幾度も幾度もこの話をする。何かと言えばうつろな顔をして「僕、指がコレですからね」とカギ状の指を見せるのである。それは見ようによっては誇らしげな感じにも思え、どこか「ひけらかすように見えた」(Aさん談)。
 
 Hさんのその心理をなんと言って説明したらよいだろう。
 Aさんの分析によれば、こうである。
 Hさんにはどこか「不具者の才走り」のごときものに対して信仰心に近い思い入れがあり、伊達政宗しかりベートーベンしかり海賊シルバーしかり、「障害=シブい」、あるいは障害は才能の証明であるというところにまで論理は飛躍し、こいつは今のところ特筆すべき能力を見せてはいないが、指の動かぬところを見るとなにか非凡なものを隠し持っているに違いない。そう周囲が推察してくれるとでも思っていたのだろう、と。
 
*後日、週刊少年ジャンプをバックルームのデスクにズラリと並べていること(ゴルフ狂正伝『粉砕』参照。何度でも言うがココは中二男子の部屋か)からも分かるように、無類のマンガ好き、もといジャンプ好きのHさんに「ジャンプ連載史上で最も好きな作品はなにか?」と私は聞いたことがある。そのとき彼は「コブラ」と答えた。私はさもありなんと思った。しかし残念ながら、誠に残念ながら、秘められたる能力の象徴であるHさんの指は、小型のサイコガンなどでは勿論なくて、ただのくたびれきった指である。
 
 どこか陰のあるヒーロー気取りの、芝居がかったHさんの態度にいよいよ我慢ならなくなったAさんは、あるとき、いつもの会議室でHさんを問い詰めた。

A「おまえ指動かんとか神経無いとかよー言うてるけど、それホンマか?」
H「ホンマですよ。昔の会社で怪我して、それから指が動かないんですよ(Hさんは何度もこの説明をする)」
A「嘘付けおまえ。おまえこの前見てたら仕事中普通に動いてたで」
H「そんなことないですよ。動きませんもん。ほら(と、言って例のカギ状の指)」
A「おまえ神経通ってないって言うたな?」
H「はい」
A「それやったら何されても痛ないな?」
H「痛ないですよ。神経無いですもん」

「よしゃ分かった」とAさん。左手でHさんの手の甲を固定し、おもむろにカバンから取り出したボールペンで、グイと指の付け根あたりを突いた。
A「どや?」
H「痛ないですよ」
A「ほなコレは?」

 さっきよりも幾分力を込め、指にボールペンの先を食い込ませた。

H「痛ないですね」
A「ほんまか!?」

 Aさんはいささか驚いたのだった。自分では疑いなく痛いはずの力を込めたつもりだった。「うわ、こいつホンマに神経無いんか?」と内心思ったという。

「ほなコレはどうや!」
 Aさんはガッチリと厳重にHさんの手を押さえつけ、今度は全体重を乗せて押し潰すように、グリグリグリグリッとペン先で突き刺した。

 刹那、Hさんはグギャッと腹の底から轟かすような奇声を発し、ワナにかかった動物の如き瞬発力で体をねじり、足をバタバタと踏み鳴らして、固定された手を振り解こうとした。が、Aさんのロックはなかなかに厳重である。

「放せや!!」
 
 かつて聞いたこともないようなドスを効かせた声でHさんが叫んだ。それは明らかにHさんの声ではなかったという。HさんがAさんにそんな口の利き方をしたのは、後にも先にもこのときだけであった。
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コメント
この記事へのコメント
「きっこの日記」。僕はこれ全く読んでいませんでしたが、あのイーホームズ藤田の話はすごい話ですね
2006/10/27(金) 11:04:13 | URL | aka #-[ 編集]
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