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ゴルフ狂正伝「Hさん対チルドレン~その2」
 【前回のあらすじ】
 <身長200センチに達しようかというデカイ子と極めてガラの悪い(?)アラクレ2名を含む7、8人の小学生がHさんの店にクラブを買いにきた。店外に並べた激安クラブを物色する彼らの様子をしばらく眺めていたHさんだったが、彼らがクラブを買う理由はそれを振りかざしながら我が店を襲撃するためではないかという疑念が不意に沸き起こり、のっぴきならぬ身の危険を感じて…>
 
 そう思うといてもたってもいられなくなり、子供らのどんな小さな動きも見逃さぬ、細心の猫のような注意力でHさんは全身をこわばらせたのだった。
 
 そのときアラクレの一人(これをアラクレAとしよう。最もヤクザ的な資質を持った子供)が「オマエ、コレデエエヤンケー」とイカツイ語調でデカイ子に言いながら、一本のクラブを手渡した。
 デカイ子はそれをしげしげと見つめたり、ぎこちなく構えてみたりしたのち、「これあかんわ」とポソリと言った。そして「ナンデヤ!」と恫喝するようにアラクレAが聞いたとき、彼はこう言ったという。
「だって僕左利きやもん」
 アラクレAが渡したクラブは右利き用のものだったのだ。Hさんは、アラクレAの気の短そうな引きつった顔と、デカイ子の肩から顎にかけての堂々として実に頼もしいラインを交互に見比べながら、そのやりとりを聞いていた。しかしアラクレAが事も無げに言った次のセリフを聞いて、背筋の凍る思いがしたという。

「ベツニエエヤンケ、ボケ」
 
ひ、左利きやと言うてるのに…。別にええやんけとはどういう了見だろう。すなわちゴルフクラブとしては用いないということではないのか。武器か?。やはり武器なのか?)

 Hさんはいよいよ青ざめたが、続けざまにアラクレAがガラス越しに店内を見ながらこう言ったという。
「オワッ!!、見テミ!、店ン中ギョーサンアルヤンケー」
 反射的に、しかし何気ない動きで、今しがた居た場所からジリッジリッとスライドして入り口の扉の前に移動するHさん。子供らの入店を、特にいきり立って先導するに違いないアラクレAの進入を水際でやんわり押しとどめようという腹であった。いかにアラクレAとはいえ、武器さえ持っていなければたかだか小学生であり、また幸いなことに彼は、標準的な小学生のなかでもおそらく背の低い部類に入ると思われるほど小柄であった。なぜならその7、8人の中でも小さいほうであったから。しかし…。

あのデカイ子に押し寄せられたらひとたまりもないぞ。もしシバかれたら、下手すれば死ぬな。デカイ子はおとなしいから自発的に押し入ったりはしないだろうが、もしアラクレAに命令されたらどうだろう。気の優しいあの子は、友達の求めにしぶしぶ応じて突破しにかかるのではないか。しぶしぶといっても、デカイ子の突破力は尋常ではない。突破されたら最後、あとはアラクレA率いる大群が雪崩れ込んでくる。店の商品を振り回し、傷つけ、やられ放題、『学校の窓ガラスを割って回る(Hさん談)』ように蹂躙される…)

「断固入店を阻止しなければならない」とHさんは思った。
「店の中のクラブはね、ものすごい高い値段なんでね、数万…、あ、数十万するのもあったかなァ。クラブに触るのはお断りしてるんですよ。ちょっとでも傷ついたらすぐ弁償してもらわないとダメなんです」白々しくも深刻さを装いながらHさんが言った。勿論大嘘である。
「サワッタラアカンノ?」
「そう…ですね。もう、なにかあったらとにかく弁償、ということになるんで」
 およそ子供の最も恐れる言葉は「弁償」であるというように(おそらくオノレがそうだったのだろう)、しきりに「弁償」「弁償」と繰り返し、アラクレAの士気をくじこうとするHさん。
「フーン」アラクレAはそう言って、またぞろキャディーバッグに入れられた激安クラブを物色し始めた。その間、その場にいた全員が無言であった。ただ、アラクレAがクラブをキャディーバッグから強引に引っこ抜いたり、抜いたのを差したりする耳障りな音だけが響いていた。  

「コラッ!、クラブをそんな乱暴に扱ったらあかん!」
 もし、ここで思い切ってそう叱責すればどうなるだろうか、とHさんは考えた。アラクレAは言うことを聞いてくれるだろうか。大人の威厳に気圧されるだろうか。いや、しかし…、そんな賭けはできるはずもない。なにしろ一言、たった一言だけ、彼が「行け」とデカイ子に命じさえすれば、今度はこっちがやられる番である。店は壊滅し、すべて終わりである。

 そしてついに、Hさんは次のように考えたという。

(初め見たときは、デカイ子、怖いと思ったが、違うぞ。最も怖いのはあのアラクレAである。彼の理不尽な、かつ暴力的な指令をこそ警戒しなければならない。この集団は彼の一声で暴徒にもギャングにもなるのだから。あまつさえリーサルウエポン(デカイ子)も控えている。彼を怒らせてはいけない。逆に言えば、彼さえ抱き込めばこっちのものである。安泰である…)

 その結果、Hさんがどのような懐柔策を採ったかといえば、ここに書くのも忍ばれるほどに卑屈であった。

 アラクレAに対して1本500円のクラブを100円にまけてやり、それを見たアラクレの片割れが(これをアラクレBとする)が「ウソー、オレモマケテヤー」と声を荒げたのでこれもまけてやり、「僕も…」と控えめに便乗する残りの子らに対しては「すみませんね、これがイッパイイッパイですわ」と一度はニベなく退けながら、アラクレAに「ウソヤン!、皆マケタッテヤ」とスゴまれれば慌ててしまって「じゃあ…、しゃーないですね」と、実にやすやすと翻心する。
 
 甚だしきは、アラクレBが100円で購入したクラブでブンブンと素振りをし始め、まずまず往来のある歩道であるから注意しなければならぬところを、そのあまりにイキの良い振りように見とれてしまって、

「ナイスショット…」
 
 と声をかけたというのだ。

 Hさんが、まさしくどこぞの社長を接待する構えで彼らに接していたことがうかがえるが、それにしても、見ず知らずの小学生の、しかも素振りに対して「ナイスショット」と言ったのは、相当稀な話ではないか。

 ともかくこうした機転(?)の数々によって窮地を切り抜けたというHさん。しかし心身ともに疲弊したのだろう。前編の冒頭に書いたように、並の虚脱ぶりではなかった。
 だがここでHさんが見せた策、すなわち“集団(小学生である)のなかから対象を探し出し、そして媚びへつらう”という態度が、僕には実に興味深い。
 
「search and destroy」(イギーポップ&ザ・ストゥージズ)ならぬ「search and flatter(媚びる)」とでも言うべきHさんの「方法」は、かつて「一vs多のケンカでは、相手の集団のボスをまず狙え」と言った大山倍達の「方法」とある面で同じであり、またある面では著しく異なっている。しかしいずれにせよ、そのような策を小学生にまで用いなければ済まぬところにHさんの特異さはある。
 
 蛇足ながら付け加えれば、Hさんが肩で風切って去るアラクレの背中に、「I wanna be your dog」(イギーポップ&ザ・ストゥージズ)と呟いたかどうかは、我々余人の知るところではない。
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コメント
この記事へのコメント
最近ヒマなのでネットで明智光秀について調べているというHさんだが、昨日「明智光秀の思想を現代に応用できないか?」とかなんとか言っていた。一体何を企んでいるのだろう。
2007/01/26(金) 14:38:22 | URL | aka #-[ 編集]
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