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ゴルフ狂正伝「sezonnoonna」
 ゴルフ屋に勤める随分前の話。Kさんは、確かセゾンだったと思うが、カード入会勧誘の仕事をしたことがあるという。
 勧誘といってもセゾンカウンターのあるショッピングモール内でパンフレットを配るだけの仕事だが、そのとき発生した次の事件を、僕はもしかすると当事者であるKさん以上に「際どい話」だと思っている。
 
 カウンターの隣に小部屋があり、そこで大まかな業務内容を聞かされ、いよいよ働く段になって、ではこれに着替えてくださいと「可愛いセゾンの女性社員(Kさん談)」にTシャツと綿パンを渡された。女が退出したのち、Kさん、Tシャツを手に取り広げてみると明らかに小さい。サイズを見るとMだとある。が、「一般的なMサイズより確実に小さかった(Kさん談)」。
 
 そのころ既にKさんは押しも押されぬデブであったので、これはさすがに小さすぎはしまいかと不安に思いながら、おそるおそる首を通した。
 結果、乳や腹のだらしない脂肪の盛り上がりにピッタリと、非常にボディコンシャスな、全身タイツの如きテイストでTシャツは地肌に密着し、しかも裾を引っ張れども腹が隠れぬという有様。

 5分後にカウンター前に集合してくださいと可愛いセゾンの女に言われていたので、Kさん慌てに慌てて、少しでも生地を伸ばそうと裾から袖から首周りから、あらゆる部分を引っ張るなどしてアガいてはみたが、腹も隠れぬほどの極小Tシャツがそう易々と大きくなるはずもない。(綿パンは最上部のボタンこそ通らなかったが、これほどのチンチクリンはあるまいと思われたTシャツに比べればまだしも尋常であった)。
 
 さらに運の悪いことに、その小部屋というのが「死ぬほど暑かった(Kさん談)」。文字通り、これは致命的だった。己の服のあちらこちらをせわしなく引っ張っていると、そのせわしなさが災いしてか途轍もない発汗量で、また、間もなくこの姿で可愛いセゾンの女の前に参上せねばならんと考えれば、そのプレッシャーでさらに発汗は促進された。

 ついには、まだ働く前だというのに頭皮からの汗で前髪はまばらな束状になり、眼鏡は曇り、そして何より悪いことには、最前借り受けたTシャツをものの数分でビチョビチョにしてしまい、乳首や腹の毛といった「見られたくない部分(Kさん談)」が、そうしたKさんの切ない宿願とは正反対にクッキリと透けて浮かび上がってしまっていた。
 
 周りでは、着替え終えた者がどんどん退出し、カウンター前に整列してゆく。とうとうKさん一人が残された。もう行かねばならない。意を決して、Kさんは小部屋を出た。

 温泉で女がするように胸を手で隠したり、若干ハスに体を構えたり、あるいは微妙に後ずさりして他の者の影に身を置くなどして、Kさんはセゾンの可愛い女の話を聞いた。それから「ではお願いします」と可愛い女が可愛く張り上げた声を合図に、三々五々他の者が散っていくなか、Kさんはひとりもじもじと佇んでいた。合図を済ませ、キビスを返したセゾンの可愛い女の5メートルほど後方で、ビショビショに濡れた水辺の妖怪のような小デブ男は、まだ佇んでいた。
 
 だが、やがて決然とKさんは一歩前に出たという。
 前に出て、自分の胸を、あるいは自分自身を指差し「これでいいすか?」と言った。しかしこの声は届かなかった。カウンターの奥には5、6人のセゾンの女たちがめいめいデスクに向かってなにやら作業をしていたが、誰にも届かなかったという。そこでもう一度、

「これでいいっすか!?」

 とKさんは強い調子で言った。
 
 全員が振り向き、Kさんを見た。初めは何事が起きたか状況を掴めぬ様子であったセゾンの女たちの顔が、数秒のちにはみるみる曇った。あの、可愛いセゾンの女がKさんの全身を冷たく見定めながら歩み寄り、一瞬言葉を詰まらせたが、「…あ、はい」とだけ言い、あまり近寄りたくないというような素っ気無さで、すぐにカウンターの奥へと引き返した。
 
 その後、Kさんのほうも逃げるようにその場を立ち去り、そのまま数時間に渡って入会勧誘を続けたが、言うまでもなくそれは失敗に終った。一人の入会者も斡旋できぬどころか、ろくに話も聞いてもらえなかったという。
 
 ところで、あの瞬間、セゾンの女たち全員の蔑視にさらされるなか、自らが吹き上げる蒸気により白濁したレンズの奥でKさんが何を見据えていたかというと、全員の女の顔を見ていたのだという。
「みな可愛かったですわ」とKさんは言った。
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コメント
この記事へのコメント
差し出がましくも付け加えると、この話を聞いたとき、僕は「これでいいすか?」は名言だと思いました。この場合の“これ”とは、単にTシャツや、もしくは醜い着こなしをのみ指すのではありません。それらを含め、体型や体質、そしてかかる惨憺たる醜態をさらさねばならないKさんの人(にん)、言ってしまえば、Kというオッサンの全存在が“これ”という代名詞に賭けられています。つまり「これでいいすか?」を詳述すれば、「こんな醜悪な、気持ちの悪い、しょーもない人間である私が今ここにあるのは、正しいことですか?」ということだと思います。

 しかしながらKさん、「いいすか?」もクソも、それはええわけないで。
2007/03/20(火) 12:27:41 | URL | aka #-[ 編集]
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